大阪地方裁判所岸和田支部 平成2年(ワ)26号 判決 1993年5月06日
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 原告が被告の個人正会員としての地位を有することを確認する。
二 被告は、原告に対し、被告発行の個人正会員権証を交付せよ。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 被告は、ゴルフ場の経営及び管理を目的とする会社であり、泉南カンツリークラブ(本件クラブ)の名称でゴルフ場を経営する。
2 本件クラブは、預託会員制ゴルフクラブである。
二 争点
1 原告の主張
(一) 亡小門清(清という。)の入会
清は、昭和五四年五月ころ、本件クラブの支配人であった中村眞生(中村という。)に対し、本件クラブの入会預託金として二〇〇万円を支払い、入会申し込みをし、本件クラブの正会員となった。
(二) 中村の権限
ゴルフ場の支配人は、会員募集業務につき総括的にゴルフ場経営会社を代理する権限を有しており、中村は、本件ゴルフ場の支配人として会員募集業務を行う権限があり、支配人として入会募集業務を行っていた。
仮に中村が商法上の支配人に当たらないとしても、中村は、被告代表者から会員募集業務を行う権限を与えられており、仮に右権限を与えられていないとしても、表見代理が成立する。
(三) 本件クラブ理事会の承認について
本件クラブの入会には、本件クラブ理事会の承認を必要としない。すなわち、本件クラブは、団体としての実体がなく、理事会は、被告の意のままに選任された理事により構成される被告の代行機関にすぎず、被告の入会の承認は理事会の承認であり、理事会の独自性はまったくない。
被告が清の預託金の支払を認めて入会手続を受け付けた以上合理的な理由がない限りこれを拒否することはできない。仮に理事会の承認が必要であるとしても、被告が承認手続をすべき債務を履行せず、これを理由に会員の地位を否定するのは、禁反言の法理、信義誠実の原則に著しく反し、被告の主張自体許されない。
また、被告は、清の入会を認め、正会員として処遇してきたのであるから、実体のない組織である理事会の承認の有無により清の資格の得喪を左右させることは不合理である。
仮に、入会に本件クラブ理事会の承認が必要であるとしても、清の入会について本件クラブ理事会が承認した。
(四) 原告の相続
清は、昭和五七年一二月五日死亡し、相続人である清の妻美智子、子である原告及び小門順二は遺産分割協議をし、平成二年一月一一日原告が清の被告に対する前記会員権を相続する旨合意した。
本件クラブの会則には、会員の死亡を資格喪失事由とする規定がなく、また、本件クラブは、会員権の譲渡を認めている。更に、本件クラブの会員が死亡し、その相続人が会員権を相続した例がある。したがって、清の会員権は、相続により原告が取得した。
(五) ゴルフ会員権証の発行請求権
ゴルフ会員権証は、正会員資格を有することを証明する書類であり、会員権に基づき当然発行を請求しうるものであり、これを紛失した場合にも再発行を請求しうる。
2 被告の主張
(一) 清が被告に入会申し込みをしたことはない。
中村は、当時本件クラブの会員募集業務の権限を有していなかったし、商法上の支配人ではなく、仮に清が中村に入会申し込みをし、二〇〇万円を支払ったとしても、被告に対する有効な申し込みではない。また、清に対するキャディバック名札やハンディ認定書が発行されているが、無権限の中村が被告に無断でしたものである。
(二) 理事会決議の不存在
本件クラブの会則によれば、本件クラブの会員になるためには、クラブ理事会の承認を要するが、清について理事会の承認はない。
(三) 会員資格に相続性はない。
本件クラブのような預託会員制ゴルフクラブでは、会員資格が当然相続の対象になるのではない。相続の対象になるのは、預託金返還請求権のみであり、優先的施設利用権は相続の対象とならない。また、本件クラブの会則には、会員資格の相続を認める規定はない。
本件クラブでは、過去に相続による名義書替を認めた例があるが、これは、当然に相続を認めたのではなく、理事会の承認を得て名義書替が認められた。
(四) 会員証交付請求権はない。
会員証の再発行が認められるのは、個別の約定がある場合か会則に定めがある場合であるが、本件ではいずれもない。
第三 争点に対する判断(省略)